人生で一番感動した食事の話
今まで生きてきて一番感動した、一番美味しいと感じた食事は何だろうか?
今日は、それについて話してみたい。
私は、18歳で田舎の高校を卒業して、アメリカへ渡った。
人生で初めての海外で、初めて飛行機に乗って、渡った先はアメリカの田舎町ウイスコンシン州のマジソン市だ。
当時は、インターネットも何もなかったので本などで自分で調べたり、学校の推薦などでアメリカの大学へ行くのが一般的だった。私もそんな経緯でアメリカへ行くことにした。
当時は、日本では成し得ないことをしたいと思っていたので、日本を離れても不思議とホームシックにならなかった。
日本を離れる時も、その後も全く寂しくなかった。逆に興奮して最高に幸せだった。
目的が大学への入学だったので、私は学生寮に入って、まずは英語学校へ通った。
学生寮にはカフェテリアがあり、毎食ブュッフェ形式でデザートまで食べ放題だった。アメリカの食事(特に田舎)はジャンクフードが多く、寮でも外でもジャンクフォード三昧だった。
私の地元では、ほぼジャンクフードと出会うことはなく、それまでは余り食べたことのない味だったが、それでも若さもあって何でも食べられた。
確か、渡米してから2-3か月したくらいに、寮にいた日本人かアジア人が、町の外れにチャイニーズレストランがあり、そこに行ってみようという話になった。そして、私も誘われた。
その中の誰かの古い車を運転して、確か4-5名がぎゅうぎゅう詰めになって目的のチャイニーズレストランに着いた。それなりに高そうな店だった。
みんなでテーブルについて、何故か全員がチャーハンを頼んだ。それ以外は英語のメニューの意味が分からなかったからだったと思う。
私は、お金もないので一番安いチャーハンを頼んだ記憶がある。
久しぶりにお茶を飲んで、何だかそこがアメリカではないような気分になり、遂にチャーハンを食べることになった。
全員が一口食べた途端、無言になって、黙々と最後まで食べていた。
私は、最初にチャーハンを口に運んだ瞬間、感動して泣きそうになった。
本当に美味かった。普通の美味さではなく、何か特別な味だった。
それから、地元の田舎から初めて飛行機に乗って、初めて海外へ行って、初めての一人暮らしで、訳も分からず毎日を生きてきた、それまでの時間が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。そして、涙が出そうになるのをこらえながら、チャーハンを食べた。
きっとみんな同じような記憶が蘇ったのだと思う。
みんな無言のまま車に乗って、寮に帰って、そのまま夜まで部屋から出てこなかった。私は、自分の部屋からただ外を眺めていた。
それから何十年も経つが、今は好きなものが好きな時に食べれるようになったし、世界中のどんなものでも食べられるような状況になった。
時々、本当に美味しいと感じるものも確かにある。
でも、あの時の美味しさを超えることはない。
今思えばあれは普通のチャーハンだ。世界にはあれより美味しいチャーハンはいくらでもある。
そんな普通のチャーハンにもかかわらず、あの時の記憶が余りにも衝撃的で、未だに鮮明過ぎて、きっとそれを超えることはないだろうと思う。
あの時の記憶は、一生の思い出として、大事にしていきたい。